かつて中小企業が業務システムを導入する際、システムを走らせるサーバーを購入するには数百万円から数千万円の初期費用が掛かりました。もちろん、そうした費用を一括で払える企業は少ないので、他の機器やシステム開発費用自体を全体に掛かる費用に織り交ぜながら、システムインテグレーターとリース契約を結んでいるユーザー企業は多いと思います。リース契約は、高額なシステム導入費に対する「ローンプラン」という面もあるため、ユーザー企業は見積もり時に提示された金額より割高な金額をシステムインテグレーターに支払うことになります。
リース契約することは、仕事に使える便利なシステムを手に入れる上で、それしか選択肢が無かった時代には、初期投資を低く押さえながらシステムが手に入る有効なサービスであったに違いありません。しかし近年ではリース契約に頼らなくとも「クラウド」を採用することで、高価なシステムを導入するための初期費用をも下げることが可能になっています。
クラウドとは「システムを必要な時に必要な分だけ利用するサービス」のことを言います。近年、様々なものがクラウドサービスとして提供されるようになり、システムを動かすサーバー、大量のファイルやデータを置いておく保存領域(ストレージと言います)、ワードプロ、表計算、経理ソフトまでクラウドで提供されるようになりました。こうしたクラウドサービスは、大抵、1サービス辺り月数千円〜の利用料で使えるようになっています。色々なクラウドサービスを組み合わせてシステムを構築したとしても、全体費用でせいぜい月あたり数万円から数十万円で済むことが多く、インテグレーターのローン契約に頼ることなく、中小企業でも安価に複雑なシステムが導入できるようになってきています。
また、クラウドはインターネットを通じてサーバーの利用サービスのみを顧客に提供するため、物理的に実在するハードウェアは顧客からは見えません。クラウドを動かしているハードウェアは存在しますが、大きなデータセンター内でシステム運用の専門エンジニアによって一元管理されており、顧客はハードウェアの故障や停電などへの対応が必要がないようになっています。更には、サーバーの老朽化に伴うハードの買い替えも発生せず、月額利用料だけ払い続ければ、ハードはクラウドの提供側で最新のものに更新し続けてくれるというわけです。
クラウドで運用するサーバーは、高度な「仮想化技術」を採用しており、サーバーの性能を顧客が自由に設定できるようになっています。CPUの数、メモリ量、ディスクサイズがサーバーの作成後にでも変更することができるので、仕事で必要となる性能を様子を見ながら決めることができます。余裕を見てオーバースペックなシステムを高い金額で購入してしまうということもありません。クラウドで起動するサーバーは「インスタンス」と呼ばれ、クラウドサービスと契約していれば、何個でも立ち上げることが出来ます。ネット販売や外向けのサービスでは、対応しなければならないユーザー数も多くなるため、複数のインスタンスを組み合わせて、高性能なシステムを組み上げる必要がありますが、クラウドではそうした状況にも対応できるようになっています。
自社オフィス内にサーバーを置いて管理するよりも、クラウドにあるサーバーを利用する方が圧倒的に障害は少ないです。まずハードの故障がありませんし、停電に備えてバッテリーを用意する必要もありません。サーバー一台構成のシンプルなシステムでは、障害から素早く復旧できるようにサーバーを正副2台(冗長構成)用意する必要もありません。もしシステムが何らかの理由により停止してしまったとしても、データのバックアップさえ取れてさえいれば、インスタンスの再起動だけで復旧させられることがほとんどです。
このようにクラウドを利用することで、初期導入コストをぐっと低く抑えながらも、圧倒的に信頼性の高いシステムが作れるようになっています。